(2001年2月20日開設)
(2007年6月13日改訂)

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ちくま新書

眠りの悩み相談室
 〜ぐっすり眠れた?〜

  粂 和彦 著 \735
<好評 発売中!>



「いびき」「歯ぎしり」「寝言」「寝ぼけ」「夢遊病」や、「金縛り」など、眠っている時にもさまざまな症状が起きます。睡眠随伴症と総称されます。このコーナーでは、睡眠中の症状について解説します。

 寝ぼけ症状の多くは子どもに発症しますが、大人になってから発症するものもあります。子どもの寝ぼけ症状は害の無いものが多いですが、 程度がひどい場合、本人や家族が困ることもありますし、深刻な病気の症状ということもあります。小児の寝ぼけは、睡眠時遊行症夜驚症など、 ノンレム睡眠中に起きるものが多く、ほとんどが大人になればよくなります。
 大人の寝ぼけで特に問題になるのは、レム睡眠中の起きるレム睡眠行動障害(RBD)です。しかし、それ以外でも、ノンレム睡眠中の寝ぼけ症状もあります。
 睡眠障害相談室では、実にさまざまな「睡眠中の異常行動」の相談を受けました。全て、起きている時はまったく正常な成人の方で、本人は覚えていない夜間に起きるものです。例をあげると、「大声で叫ぶ」「隣に眠っている家族をたたく」「自分の顔を、思い切りたたく」「トイレ以外の場所で用を足してしまう」「腕や体にすごい力を入れてしまい、起床時に体がくたくたになっている」「指をしゃぶる」などです。これらの全てに共通しているのは、眠っている間のことなので、ご本人はどうすることもできず、どこに相談したらよいかもわからず、かなり困っていることです。
 さて、眠っている間の悩みの場合、例えばRBDという病気そのものを知らない医師も多いですから、なかなか普通の内科などでは対処してもらうのが難しいようです。ですから睡眠障害を専門にする医師がいれば、最初からそこを受診することをお勧めしますし、そうでない場合には「レム睡眠行動障害」の疑いがあるということを話して下さい。
 治療法は、RBDならば、クロナゼパムという薬がかなり効くことが多いです。また、RBDは、一般的には、高齢者に多いものです。子どもに見られる「寝ぼけ」症状は、ノンレム睡眠性のものが多く、大人でも若い人の場合には、ノンレム睡眠性のものも多いです。その場合、残念ながら治療法があまりないのですが、実は、よく調べてみると、この寝ぼけ症状の原因として、睡眠時無呼吸症候群や周期性四肢運動障害、という、本人の気がつかない間に、睡眠を浅くするような病気が隠れていることがあります。その場合、これらの病気の治療で、寝ぼけ症状も改善します。このような診断には終夜睡眠ポリグラフィ検査(PSG)が欠かせませんので、睡眠専門の医療機関を受診して下さい。
 また、多くの場合、ストレス・睡眠不足・飲酒などが、症状を悪化させるようです。簡単には治りませんが、どのような時に悪くなるかを、自分でよく観察して、うまくつきあっていくことも重要です。
 また西洋医学的には、理解されていないことでも、東洋医学的な治療の効果があることもあります。真偽は不明ですが、例えば、寝言が鍼で治ったという例がHPで報告されていたりします。
http://www.shinkyu.com/negoto2.htm


【レム睡眠行動障害(RBD)】

 大人で特に問題になるのは、レム睡眠行動障害(REM sleep behavior disorder)です。睡眠は、レム睡眠と非レム(ノンレム)睡眠に分けられますが、レム睡眠は比較的浅い睡眠で、全体の中で占める割合は10ー20%と少ないのですが、夢の多くを、この睡眠の間に見ます。通常、レム睡眠の間は、体の力が抜けてぐったりしていて、例えば夢の中で自分が歩いていても歩き出してしまうことはないわけですが、この病気の場合、何らかの原因で体の力が抜けないので、夢で考えていることを、実際にしてしまったりするのです。子どもに多い、いわゆる「夢遊病」(睡眠時遊行症)は、ノンレム睡眠中に起きるので、この病気とは全く異なります。症状が軽くて、時々起きあがってしまう程度ならいいのですが、部屋を出たり、隣に寝ている人をたたいたりするような場合は、専門家に受診して治療が必要です。
 RBDは、認知症の夜間せん妄状態とは異なりますから、治療法も異なります。夜間せん妄と誤診されて、間違った治療法を受けて、症状が悪化することもあり要注意です。
 また、RBDが、パーキソン病や認知症(特にレヴィ小体型)の初期症状として出現することもありますから、その点も注意が必要でしょう。
 治療としては、クロナゼパムや、レム睡眠を減らすタイプの睡眠薬が効果的とされています。


【睡眠時遊行症(Sleep walking)】

 俗に「夢遊病」と呼ばれるものです。アルプスの少女ハイジが、山を下りてクララと一緒に暮らすようになった後に、夜になると歩き回ってしまい、翌日は覚えていないというシーンがありますが、このように小児にはありふれたものです。10%以上の小児に見られるという報告もあります。通常はかなり深いノンレム睡眠時に見られますので、入眠後、1時間程度に認められることが多く、ほとんどは、睡眠の前半3分の1に起きます。4歳から8歳くらいで発症し、遅くとも思春期までには、ほどんど自然に消失します。 このように、一般的には心配することはありませんが、てんかんなどの他の病気の症状として発症している場合もありますし、また、キャンプなど自宅以外で眠る場合には、事故を起こす危険性もあり、症状がひどい場合には、ご相談下さい。

なお睡眠時遊行症について、よくある質問ですが、

A.症状を止める薬はありますか?
残念ながら、これは正常の範囲内のことなので、治療する(症状を抑える)薬は、あまりありません。原因によっては抗うつ薬が効いたという報告もあるようですので、どうしても症状を抑える必要がある場合は試してみるのもよいでしょうが、かならず効く薬は知られていません。

B.症状を悪化させる要因はありますか?
ストレス・疲労・発熱や一部の薬(喘息の薬など)が、症状を悪化させる(回数 を増やす)可能性があると言われているので、もしこのようなことがあれば、それを 避けることが必要です。

C.何か自宅でできる工夫はありますか?
だいたい毎晩決まった時間に遊行が見られる場合、それが起きる15ー30分前 に、強制的に覚醒させることを5日ー30日くらい続けることで、治ることもあるそ うです(もちろん、確実ではありません)

D.症状が出て歩き回っている時はどうしたらよいですか?
遊行中には、起こさないで下さい。寝ぼけなので目を覚まさせるといいと考えている方が多いようですが、効果はなく、また歩行中は、かなり深い睡眠状態なので、簡単には目を覚ましませんので、そこで無理に起こすのはよくありません。優しく、ベッドまで連れて戻ってあげて下さい。


【夜驚症(Night terror)】

夜驚症は睡眠時遊行症よりは頻度は低いですが、それでも、かなり頻度が高く、より低年齢から出現します。 睡眠時遊行症と似ていて、ノンレム睡眠中に起きますが、歩き回るかわりに、大きな声で泣いたり、叫んだりという症状が主に出現します。 夜驚症を初めて経験すると、激しい泣き方に、親はたいてい、びっくりして大変に心配しますが、多くの場合は、特に問題なく自然になくなります。 ただし、てんかんなどの別の疾患の症状だったり、別の疾患の初発症状として出現したりすることもありますので、繰り返す場合には、一度、医師にご相談下さい。


【睡眠麻痺 「金縛り」】

「金縛り」がなぜ起きるかをまず説明しましょう。睡眠にはノンレム睡眠とレム睡眠(睡眠を知るコーナー参照)があります。レム睡眠というのは変わった睡眠で、レム睡眠の間、脳はかなり起きている状態に近く、浅い睡眠で、夢もよく見ています。しかし、この時、体の方は完全に力が抜けてしまっています。つまりレム睡眠は、頭ではなく、体の睡眠なのです。このレム睡眠の時に、もし急に目が覚めると、体の力が抜けきっているので、急には動けません。そのため、「金縛り」になるのです。「金縛り」そのものは異常ではありません。ただもし回数が多くて気にかかる場合は、上に書いたような仕組みでおきるので、レム睡眠が増えていたり、睡眠全体が浅くなっていることもあります。そのため、不規則な睡眠習慣、睡眠不足、ストレスなどで、回数が増えることもあり、このあたりの注意が必要です。また、まれですが、ナルコレプシーという過眠症を伴う病気や、低カリウム性麻痺などの内科的な病気の症状のひとつとして「金縛り」が出現することもあります。

【いびき・歯ぎしり】

いびきも、歯ぎしりも、病気ではありませんが、家族が迷惑することもあります。また、いびきについては、睡眠時無呼吸症候群という、かなりよくある病気の症状の一つとしてあらわれていることがあり注意が必要です。これらについては、現在、病院で指導できるような治療法はありませんが、民間療法的なさまざまな工夫がされていて、インターネットでも、いろいろな情報を得ることができるようです。(リンク確認)

【うなり】
 眠っている時、特にレム睡眠時には、呼吸が不規則になり、「うなる」ような声を出す人も、かなり多いようです。寝言や、いびきと並んで、たくさん相談を頂きますが、この症状は、寝言といびきの中間的なものと考えるとわかりやすいでしょう。
 寝言の場合、言葉になるように息を吐きますが、うなりでは、言葉になっていないだけです。 睡眠中、私たちは意識がないわけですから、通常は無意識に呼吸をしています。起きている時も、体操で深呼吸をするときなど以外は、「無意識に」呼吸しています。(意識があるのに無意識に、というのは面白いですね。)
 ところが、起きている時に、話したり、歌を歌う時に、私たちは、この無意識の呼吸を止めて、意識的に呼吸をコントロールします。でなければ、カラオケに合わせて歌えません。歌詞と歌詞の間に、息継ぎをします。泳いでいるときもそうですね。 寝言や、うなりの時も、同じことで、眠っているのですから、意識はないようにみえますが、まるで意識があるときのように、呼吸がコントロールされると、寝言やうなりになります。
 うなりの場合には、声を出そうとしているわけではなく、単に空気の流れだけで音が出ることもあるので、その点は、いびきにも似ています。
 ですから、「うなるような声を時々出している」というだけで、他の症状がなければ、通常は心配は不要です。 しかし、うなりによって睡眠が障害されて、眠っている途中で目が覚めたり、日中の眠気がひどかったりする場合には、きちんと調べた方がよいでしょう。特に、いびきもある場合には、睡眠時無呼吸症候群の可能性もあります。
 残念ながら、うなりには、あまり良い解決法はありません。枕の高さや、寝るときの体の向き(仰向けか、横向けかなど)で、多少、良くなることもあるようですが、あまり効果がない人も多いようです。 非常にひどい場合には、PSG検査をして、どの時期に起きているかを調べます。レム睡眠中の場合に出るのならば、レム睡眠を減らす薬剤が効果があることもあります。


【悪夢】

 悪夢については、残念ながら、医療にできることはほとんどありません。
 まず、基本的には、誰でも夢は毎晩たくさん見ているのに覚えていないものです。その内容もさまざまで、特に悪い夢の方が覚えていることが多いので、悪夢が増えます。悪夢そのものは、病気ではないので、治療の対象になることはまれですが、夢を見るのがレム睡眠の時の方が多いことから、レム睡眠が増える状態、つまり睡眠そのものの質が悪くなっていると、悪夢が増えると考えられます。ですから、レム睡眠を減らしたり、睡眠の質を良くしたり、という間接的な工夫が、ある程度効果的であることもあります。
 悪夢を、高い頻度で見る人の割合は5−10%と言われています。原因として、特定のものをあげるのは難しいですが、大きなものとしては、1.悪夢を見る原因となる精神的なストレス・トラウマがある場合、2.上に書いたように夢を見るのがREM睡眠の時が多いので、睡眠そのものが障害されてREM睡眠が増えている場合、の2種類があります。1.があるときは、もちろん、そのために2.も起きます。2.の原因としては、精神的なもの以外にも、寝室の温度が高すぎるとか、生活のリズムがずれているというようなものもあります。ただ、このようなはっきりした原因がなかなか見つからないことも多いです。
 ということで、良い対策は、あまりありませんが、はっきりした原因がある場合は、それに対して精神療法を行うことが効果があります。また、多くの睡眠薬はREM睡眠を減らすので、悪夢で寝不足になっているような場合は、睡眠薬を飲むのは効果があります。