(2001年2月20日開設)
(2007年6月13日改訂)

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ちくま新書

眠りの悩み相談室
 〜ぐっすり眠れた?〜

  粂 和彦 著 \735
<好評 発売中!>



ここでは「眠れない」悩みに、3つのステップでアプローチして、
上手に解決してもらう手助けをしたいと思います。

1.なぜ眠れないか探ってみる(不眠症の原因)
2.よりよい眠りを取る方法を探してみる(不眠症の対処法)
3.それでもだめなら薬も試してみる(睡眠薬について)

1.なぜ眠れないか:不眠症の基礎と原因による分類

不眠症と一口に言っても、人により症状は様々です。一番多いのは、寝つきが悪い(入眠障害)ですが、途中で目が覚めてしまう(中途覚醒)、朝早く目が覚めてしまう(早朝覚醒)ということもあります。また、中途覚醒の中にも、眠りが浅いのか、悪夢で目が醒めてしまうのか、といった違いがあります。そのどれなのかにより、治療法・対処法も異なります。そして、何よりも大切なのが、不眠になった原因を探ることです。そこで、まず、どんなタイプの不眠症なのか、考えてみましょう!

注意:国際的な睡眠障害の診断基準(ICSD)では、不眠症と過眠症はひとつのカテゴリーで扱いますし、こことは異なる分類がされています。その詳細については、教科書を参照して下さい。この分類は、臨床的に出会う頻度の高いものを一般の方に対してわかりやすく解説したもので、作者のオリジナルなものです。


1.病気ではない不眠(生理的不眠)
 睡眠充足状態:
たとえば、夕方に昼寝をしてしまえば、誰でも寝つきが悪くなります。また、睡眠時間が5時間程度の短時間で全く問題のないかたもいます。そのような方は、8時間普通に眠った次の日は、寝つきが悪くなります。これは病気とは言えませんね。(睡眠時間についてを参照)「あー、今日は寝坊したから、眠れないよ・・・」
 加齢性の不眠:睡眠は生涯を通じて量・質ともに変化します。歳とともに、朝早く目が覚めるようになったり、眠りが浅くなることは正常なことです。詳細は、睡眠の老化現象についてを参照して欲しいのですが、老化現象は睡眠から始まると言ってもいいくらい、睡眠の質の変化は若い世代から始まります。「40の声を聞いたばかりなのに、もう明け方、目が覚めやすくなった気がする・・・」というのは、正常なことです。
 生体リズム性の不眠:本来、体が昼だと思っている時間帯は眠気が非常に弱くなります。海外旅行で、日本で昼である時間帯が夜になってもすぐには眠れません。(時差ボケの項参照)夜眠れなくて、朝寝坊してしまい、翌日もまた寝つきが悪くてという悪循環を繰り返すこともよくあり、これらは1日の規則正しい生活リズムが乱れて起きていると考えられます。このようなリズム障害は別項にも扱いますが、「寝つきが悪いこと」がその悪循環の根本的な原因である場合は、リズム障害性の不眠です。(リズムの異常のコーナーを参照)
 この1番に並べた原因による不眠は、病気ではありませんが、程度や社会的・自覚的な要請により、不眠症として治療する必要があることもあります。

2.過緊張性の不眠
 働いている人の中で経験する不眠症は、これが一番多いでしょう。日中、仕事などによる緊張で神経が高ぶった状態になり、本来、神経が休むべき夜間になっても神経の緊張がとけないためになかなか寝付けず、また寝入っても、眠りが浅く、睡眠不足になる状態です。「今日は12時までの残業で疲れ切って帰ってきたのに、なかなか寝付けなかった。おまけに、途中で目が覚めたし・・・」

3.ストレス性・精神外傷性の不眠
 これは基本的には2.と同じものなのですが、もっと具体的にはっきり原因が存在するものです。例えば、辛い思いや嫌な思いをした時、どうしても気になること・悩みがある時、腹が立つ時、など、誰でも眠れなくなります。「次のプロジェクトの担当になって以来、どうも寝付きが悪いな・・・」「彼女にふられてから、ベッドに入るとついくよくよして考え込んで、目が覚めてしまう。」

4.カフェイン・薬・アルコールによる不眠
 コーヒー、お茶などカフェインの摂取は睡眠を障害します。睡眠を障害する副作用を持つ薬もあります。また、意外なことに、アルコールは寝つきを多少よくすることもありますが、睡眠を障害します。「最近、寝付きが悪いから、寝酒をするようになったのに、それでも朝、早く目が覚めてしまう。」というのは、お酒が悪い可能性があります。

5.環境性の不眠
 睡眠環境が悪ければ、眠れないのは当然なのですが、寝室の騒音・明るさ・温度や寝具の選択に無頓着な方がいます。これだけが、原因ではない場合でも、睡眠環境を整えることは、よい睡眠を取るためには大切です。

6.精神的な疾患による不眠
 うつ病を始めとして、多くの精神的な疾患で睡眠が障害されます。特にうつ病は、過明と不眠の両方の症状が出ます。3番のストレス性・精神外傷性の不眠が、特に長引く場合は、「うつ病」に移行している可能性を考える必要があります。「肉親が亡くなって、もう1年も経つのに、今でも思い出して眠れない・・・」とか、「特に悩みがあるわけではないんだけど、最近、どうも仕事にやる気が見いだせなくて、夜もなんとなく眠れない。」というような方です。

7.その他の疾患による不眠
 精神疾患ではなくても、睡眠を障害する疾患もあります。自律神経の機能を障害する疾患は特に注意が必要です。また、自律神経系に作用する薬が睡眠を障害することもあります。(自立)

ここまで、読んでみて、何か思い当たることがありましたか?もしなくても大丈夫!特にこれといった原因がなく、眠れないことに悩んでいる人もたくさんいます。原因では一つだけではないこともあります。また原因を知ることは大切ですが、例え原因がわかったとしても、それを取り除くことができないこともあります。
ですから、不眠症の場合、対処法が重要です。


不眠症の対処法(よりよい睡眠のために)

寝付きが悪かったり、中途で目が覚めてしまったりする人は、非常に多いのですが、それを簡単に改善するようなマジックはありません。同じような工夫がある人にはうまく働き、ある人にはかえって逆効果であることさえあります。ただ、良い睡眠を取るために、下記のような工夫を紹介しますので、ご自分に合うものを見つけてみて下さい。

1.眠ろうと思わないこと。リラックス。
睡眠は記憶に似ていると言われます。覚えていなければならないことは、すぐ忘れてしまうのに、忘れたいことは、なかなか忘れられません。それと同じように、眠ってはいけない時には、つい居眠りしそうになるのに、眠らなくてはいけないと思うと、どんどん目が冴えてくるというのが、万人が経験することです。基本的には睡眠は、放っておけば必要なだけ体が取ってくれるものです。ですから、よい睡眠が取れる環境を整えることは重要ですが、ベッドに入った後は、眠ろうとしないことです。目を閉じて静かにしていれば、体の安静は取れるのだから、ことさら眠る必要はないのだと、気持ちを楽にすることが重要です。羊を数えるのも同じ効果があるのでしょうね。

2.睡眠を毎日、同じ時刻に、規則正しく取る。
実際の行動面でもっとも大切なのは、できる限り毎日規則正しい時刻に睡眠が取れるようにすることです。不規則な睡眠の取り方をすると、体内時計が進んだり遅れたりを繰り返し、その度に無理がかかるからです。1.に書いたように、横になっていれば体の疲れはとれますから、眠くないからといって、深夜まで夜更かしして起きているのではなく、決まった時刻にベッドに入り、目を閉じる癖をつけ、また、朝も休日だからと、お昼近くまで眠るのではなく、同じ時刻に起きる努力をします。また、睡眠時間は個人差が大きいものですし、また普段8時間眠る人でも、仕事が忙しくなれば、5−6時間の睡眠で、数ヶ月、多少の日中の眠気以外は何の問題もなく過ごせるものです。しかし、ほとんどの人が、望ましい睡眠時間(日中、あまり眠くなることもなく、疲れもたまらないという意味=>Q&Aの項目参照)よりも短い睡眠しかとっていないのが現実のようです。あらっぽい書き方をすると、最低でも7時間はベッドの中にいる時間を作れないと、長い目で見ると体と心に問題をきたすことがあるようです。なおこの項目については、リズム障害の項も参照して下さい。

3.具体的な睡眠時間の取り方
上述のように、規則正しく睡眠をとることが必要とわかってはいても、残業が続き睡眠時間が短くなることはよくあります。その場合でも、できる限り24時間の周期を保つ工夫が必要です。具体的には、できる限り、最低限、数時間は同じ時間帯に睡眠を取るようにすることです(コア・タイム・スリープと呼びます)。本来は体温測定をして、それが最低になる時間帯の前後3−4時間をコア・タイムとし、その時間帯は必ず眠るようにするのですが、現実的には、自分の生活パターンを考え、一番遅くとも、ベッドに入れる時間を設定して、そこから5時間程度をコアタイムに設定して、それを守るようにします。この時間を守れない日が避けられない場合も、それを週に1日以下に制限することが重要です。

4.午後のカフェインを減らす。
寝付きが悪く睡眠時間が短くなると、午後眠くなり、ついついコーヒーを飲み過ぎになる人も多いようです。眠る前にコーヒーを飲んでも良く眠れることもあるから、私には関係ないという方も多いのですが、それは間違っています。カフェインの覚醒効果に耐性の人はいませんし、また効果は意外に長く続きます。できれば、午後3時以後は、コーヒーをやめて、夕食後も緑茶などを極力避けて下さい。

5.お酒は、控えめに(適量に)する。
ごく少量の飲酒、具体的にはビール1缶程度までなら、寝付きをよくし、その後の睡眠にはあまり影響を与えないことが知られています。しかし、それ以上の量では、睡眠後半の睡眠の質が悪化し、中途覚醒が増えますし、たとえ目が覚めることはなくても、時間の割に、睡眠の充足感がなくなり、睡眠不足となります。ビールなどでは尿意による覚醒も悪影響があります。アルコール依存症では、不眠が必ず起きることも知られています。また、睡眠薬の多くが、アルコールとの併用で、作用が異常に強くなったり副作用がでることも知られています。ですから飲酒は控えめにして下さい。 睡眠薬を飲むより、お酒で眠った方が体によいと考えている人が、医師の中にまでいますが、これは間違った考え方です。

6.身体的・精神的緊張とストレスの軽減
適度の運動をすることは、身体の疲れと精神的なストレスの発散につながり、睡眠を促進します。しかし、寝る前の時間の激しい運動は、かえって神経の緊張を高めて逆効果になることもあります。同じように、眠る前に精神的に緊張したりストレスを受けることも避けるべきです。午後11時まで残業をして疲れても、12時にすんなり眠れる人は少ないはずで、たとえ疲れ果てて眠れたにしても、睡眠の質はかなり悪化します。

7.寝室の環境
寝室の温度・湿度、明るさ、騒音なども、当然、睡眠の質に影響します。また、朝の寝起きが悪い人は、朝日が当たるようにすることで、自然に、朝早く目が覚めるような工夫もできます。

8.睡眠の場所
旅先で枕が変わると眠れなくなると、昔からよく言われます。睡眠には条件付けが為されることが知られていて、寝室で横になると、別の場所で横になるのとは違って、昼でも眠ってしまうこともあります。ですから、良い眠りを取るために、いつも同じ安心できる場所で眠ることが勧められます。しかし、逆に床に入るとかえって目が覚める人も多く、こういうことが続くと、「床に入ると目が覚める」という不安を伴う条件付けがされます。このような場合には、眠る場所を変えることも効果的になります。またいつも同じ会議室で同じ場所に座ると、すぐ眠くなる人の場合も、時には席替えをしてもらって社長さんが座っている場所に座れば、眠くならなくなることもあります。


9.薬物療法

薬物療法と睡眠薬については、このホームページを作った時(2000年頃)から、大きく様相が変わっています。また、最近、睡眠学会が薬物療法を含む不眠症全般についてのガイドラインを出しました。そちらを参考にして下さい。

日本睡眠学会ガイドライン
http://www.jssr.jp/data/guideline.html