田中宇さんを囲む会:報告と感想 (粂 和彦)  2001年12月13日 up

 (敬称はさんに統一しています。#は、私の追加コメントです。コメントは、メールでこちらへ)

2001年12月1日土曜日、ボストン市は90年ぶりに最高気温記録を更新する華氏71度(摂氏22度)のぽかぽか陽気に恵まれた。会は参加希望者が多数だったため2部に分けて行われ、前半は4時半から7時まで、ハーバード大学公衆衛生大学院のG10教室で、参加者27名で討論会を行い、後半は、前半参加者の一部と後半からの参加者が合流した総勢31名で、ロングウッドタワーズ内のレストラン・ベロニカで、懇親会を11時過ぎまで行った。

第1部には、直前まで開かトいたボストン医療・保健分野交流集会の参加者も一部合流して、最初に参加者全員による自己紹介のあと、田中さんから、自分の記事の作り方のスタイルについて説明があった。まずインターネットを駆使して、各国からの情報を毎日収集する。最低でも30以上のソースを欠かさずチェックするそうで、英語が中心だが、一部中国語のサイトなども利用する。これらのニュースソースは、分野別に仕訳されて保存され、ひとつのテーマについて、最低でも数十以上の情報が集まると、初めてそれをまとめて自分の意見も加えて記事を書く。1つの項目を書くのに10時間以上はかかる。最後の段階で、自分の意見を、少し抑え目に書き直すと、多くの人に共感を得られることが多い。とのこと。自分は大学は文系だが、理系の人によくあるような考え方をしていると思うと話されたのが印象的だった。また、ニュースソースとしては、量的にはアメリカ発のものが多いが、小さな国の新聞の英語ページなどで、思わぬ発見があることもあるとのこと。
# 田中さんの情報源は http://tanakanews.com/source.htm に紹介されている。
# 例えば、ロイターという通信社は、かなりフリーに近い記者を多数かかえ、非常に幅広いニュースを発信している。しかし、そのうちのどれを報道するかは各報道機関にまかされるため、CNNや、ロイターそのもののホームページで得られない情報を、同じロイター伝で、他のソースで見ることができる。現在のボストンでは、スウェーデン発祥のfree newspaperである、metro (http://www.clubmetro.com/) が、ひと味ちがった報道をしている。

このお話を受けて、今回のテロとマスコミに関しての話題を、ブラウン大学の石田さんにして頂いた。石田さんは、マスコミに対する積極的・消極的な規制、情報操作をいくつか例をあげて話された。それを受けて、ボストン大学の和田さんは、さらに身近な例として、小学校の先生による子供たちへの戦争の話などを取りあげた。
# 和田さんが例をあげたFM Talk (96.9: http://www.wtkk.com/)では、イスラエルの爆撃が始まった昨日、「Yasser Arafat と Osama bin Ladin の違いは、身長と体型と年齢だけだ」といった意見が出ていた。なお、一般的にFM のトーク番組中心の局はconservative なものが多い。例外はWBUR (90.9) でこれは、NPR (National Public Radio)のニュースを流す、ボストン大学発の非営利局である。
# テロ後に、ボストンの誇るJFKライブラリーが連続して開いているフォーラム(Responding to Terrorism : http://www.boston.com/jfk/ 講演内容はhttp://www.boston.com/jfk/events.shtml)は共感をもてる内容が多く、非常に参考になる。ボストングローブに、毎回、1面を使って要約が掲載されている (12月3日は、ケネディスクールのディーンのJ.S. Nye の講演内容で、たいしたことはなかったが・・・)

その後、田中さん自身の見方を問う質問があり、今回のテロそのものにアメリカの果たした役割、極端な場合、全てが自作自演に近いというシナリオまで含めて、今の段階では、どう判断して良いのかわからないという解答があった。またその中で、「今の日本では、真珠湾攻撃に対しても、多くの国民が見方を変えていると思う」というのは、驚きだった。

次に従業員6万人(ボストン地区に3000人)という大きな会計監査企業に勤める阿部さんより企業の受けた影響の紹介(同僚が5人なくなった)、MITの窪田さんからは、画像・音声認識などが今後のセキュリティにどの程度貢献できるか(結論としては、あまり役に立たない?)という話があった。また、窪田さんは、様々な出自の異なる友人の間のレスポンスの違いなども取り上げた。

ブランダイス大学の大口さん(ロード・アイランド在住)からは、小学校で愛国心を高めるような教育が行われていることが紹介された。
# この部分、時間がなくて大口さんの真意が伝わりにくかったそうで、下記に、本人からの補足を追加した。
# 北隣のニューハンプシャー州は、モットーが Live free, or die. というだけあって、小さな政府(消費税・所得税無し)保守的(50州で最後までMLKデーを祝わなかった)というのは、知っていたが、ロードアイランドは、今でもVデー(8月14日、太平洋戦争の終わった日)を祝っているというのは、知らなかった。
# アーリントンに住む私の友人の子供(小学校2年生)は、テロのあと、Pledge of allegiance (胸に手を当て、星条旗に誓いをたてること)をしている時に、日本人としてのナショナリティに目覚めて、日本語学校に行きたいと言い始めたそうだ。

この後、ハーバード大学の安藤さんに、映画「トラ・トラ・トラ」をアメリカ人に見せた経験を話していただく予定だったが、時間がなく失礼した。2次会の方で聞いた話を紹介すると、ラボのポスドク・院生等に見せたところ、一人の院生の白人女性が気分を害し、日本はいまだにアジアで謝罪しない等のお決まりのことを言われた。しかしその他の中国系、白人ポスドク男性には好評で感謝された、とのこと。
# この部分へも、コメントを下記に追加した。

その他にも、いろいろな方から面白い経験・意見を紹介していただいたが、時間もなくなり、ここでお開きとした。


2次会の方は、人数も多く、長いテーブルだったため、全員で話すことは無理があり、田中さんに何箇所かに動いてもらい、少人数で話しが盛り上がった。こちらでは、私はほとんど会話に参加できなかったが、雅子さまの出産の日にも重なり、天皇制の是非などという話題も聞こえてきた。また、ここに書けないような話題で盛り上がった時もあったそうだ。
# 意外に知らない人の多かった池澤夏樹さんのメルマガは私からのお勧め。読んでいてほっとする。(新世紀へようこそ:http://www.impala.jp/century/index.html


田中さんには、10時頃から友人のジャーナリストの方と会う予定を遅らせて、長々とつきあって頂き、2次会も充実した時間だったと思う。ある方から、料理が少なくて話に集中できて良かった、という「微妙なコメント」も頂いたが・・・

参加して下さったみなさん、そして、もちろん、田中さん、どうもありがとうございました!




余談だが・・・2次会終了後、幹事の私は田中さんを送っていくつもりだった。しかし、帰宅方向が2グループに別れたので、田中さんともっと話したかったのに、泣く泣く?、別の4人を車に乗せて帰路についたと思ったところ・・・気づいてみると、この4人が、全部、独身!その中には、「山梨の貴公子」もいて、独身女性が彼の家で3次会を続けるとのことで、幹事としては、最後まで何か「間違い」があってはいけないと、保護者として3次会に参加する羽目に・・・3次会は文字通り3時まで続き・・・あー、疲れた。




「参加者からの感想」 参加者から感想を頂いたので、そのまま掲載します。

Brigham & Women's Hospital の河村さんから


粂先生:

Organizeするのは大変だったと思います。お疲れ様でした。大変有意義な時間でした。ありがとうございます。田中さんにも、よろしくお伝えください。

自分の仕事に関連して言うと、バイオテロに関する情報などは本当に早かったですね。AMAのHPなどは、かなり早い段階から整理した情報を伝えていました。NatureやNEJMの記事も、敏速でした。 http://www.ama-assn.org/ama/pub/category/6671.html

Brighamでは、9月11日直後、予定手術を全部延期して、病棟を100床あけて準備していましたが、実際はほとんど患者は運ばれてきませんでした。 Mass Med Societyなどが組織したボランティアは現地で活躍したようです。厚生省からのボランティア要請メールをHMJに転送しましたが、事件から一週間後でした。遅きに失した、という感じはしますが、メールしてきた彼を非難する気は全くありません。厚生省の中では、一番最初に動こうとしたと思うからです。
# ちなみに、国際医療センターに勤める私の知人は、テロの「数日後」から36時間、成田空港でずっと待機していたそうです。ご苦労さま。

話を今日の会に戻しますと・・

田中さんが、今の時点でBinLadenとCIAの関わりについて整理できていないと言ってらしたのが印象的でした。

湾岸戦争以後、サウジアラビアがアメリカの中東前線基地になっているのは確かですが(サダム・フセインの無謀なクウェート侵攻のおかげで)、アメリカが本当にサダム・フセインやビン・ラーディンを(今も)必要としているか、というのは難しい問題です。

戦争が起きたら起きたで、その中で最大限儲けようとする軍産複合体や政治勢力があるのは明白としても、彼らは戦争があってもなくても、どちらにしても儲けるので、9・11自体が自作自演というのは(少なくとも、あの規模のテロを望むわけがないので)言いすぎでしょう。ある程度、各国の反政府組織などと情報を交換して手なずけておく(さらにいえば、小規模のガス抜きテロをやらせる)、というのはCIAの任務の一つでしょうが・・。

今回、アメリカはビン・ラーディンを本気でつぶそうとしている、と思います。(泳がせていたからこそ、この結果になったので=つまり、彼はもうアメリカがコントロールできる範囲を越えている。)

>石田さん:メディアに対する規制、言論規制の話を

9.11前後の連続性と非連続性、興味深かったです。日本でもオウム事件前後に明らかな連続性と非連続性が見られました。

今回のメディア報道で、積極的・消極的に規制がかかっていたという石田さんの指摘は、ある意味正しいと思います。
でも、寄付がちゃんと使われていないことは、しっかり報道されていますし、少なくとも僕の周りでは、アメリカの中東政策が遠因になっていることは十分認識されている気がします。そんなに捨てたもんじゃない、という感じです。

反戦というメッセージがかき消された、というのは実際、そうですね。

ただ、印象に残っているのはオノ・ヨーコのNYタイムズへの広告(#写真参照)(僕は同日の NYタイムズを買いましたが、New England版には載ってませんでした)と、 TVで何度か流れた女優アンジェリーナ・ジョリーが(セクシーで好きなんですが)アフガン難民キャンプを訪れたときの映像(彼女は黒柳徹子と同じく、UNICEF親善大使)です。彼女はテロ前の7月に訪れたわけですが、そのときの映像が、10月のアフガン攻撃前に淡々と何度も流れたのを覚えています。テロへの報復という大義名分があっても、攻撃によってこの難民がもっとひどい状況に陥るということ自体は、十分伝わってくる報道だったと思います。 Operation Infinite JusticeがOperation Enduring Freedomに改名されたのはあまりに独善的すぎると(国民にも受け入れられないと)政府・軍が考え直したためだと思っているのですが・・。

http://www.yomiuri.co.jp/hochi/geinou/sep/o20010926_60.htm
http://www.unwire.org/unwire/2001/07/18/index.asp

報道機関の姿勢というより、一般市民の反応で、残念なものがありましたね。反戦を訴えた女子高生の退学事件もその一つでした。

http://www.daily.co.jp/gossip/gs20011129020867.html

ところで、Metroは9月11日以前はよく見ていたのですが、最近なぜか手にしていなかったので(深い意味はありません)、粂先生の指摘は新鮮でした。これから意識的に読んでみます。

>和田さん:石田さんの話に追加の形で、一言、

FM Talkの保守主義に驚いておられましたが、あの局は過激さが売りなので、さもありなんという感じです。6月のSwift知事の出産時には「知事と育児が両立できるわけがないだろ!」という大批判キャンペーンを展開してました(笑)。

>阿部さん:テロによる会社への影響(直接的、間接的な)などを

政治経済については、それなりに情報を入れるようにしているのですが、現場の状況は、とても参考になりました。

>窪田さん:阿部さんに追加の形で、一言、

顔認識が実際は役に立たないだろう、というのは専門家の意見として面白かったです。大体、認識技術が向上しても、人間の認識力を超えるわけはないので、無駄なのは確かですね。ビン・ラーディンが整形や変装していなければ見逃す人はいないでしょうし、姿を変えていれば、当然認識装置にはひっかからない。本当かどうか知りませんが、ビン・ラーディンの影武者が何人かいるらしいですし、極端に言えば、アルジャジーラのビデオが本人かどうかなんて、分かりません。

>安藤さん:「トラ・トラ・トラ」の上映会の感想を

僕自身はパールハーバーとトラ・トラ・トラの違いは、それほど大きくないと思います。どちらの映画も、見ようによってはアメリカ万歳の映画になりえます(日本人の目から見ると違いはあっても、アメリカ市民には、その違いは伝わらないのでは、という意味)。少なくともトラ・トラ・トラが上映されたことによって、アメリカの大衆意識が変わらなかったことは、今回のテロと真珠湾攻撃を単純に比較している現状から見て間違いないでしょう。

>大口さん:犠牲者へのカウンセリングや学校での取り組みについてご存知でしたら。

星条旗に対するイメージのすりこみなどにショックを受けておられるようでしたが、僕はある意味、アメリカも「普通の国」である、という感じ方をしました。逆説的ですが、日本ほど国家や宗教から自由である社会は珍しいと思います。(地理的・言語的に孤立しているおかげで、特別な求心力が必要ない。)

アフガニスタンに関しては、ペシャワール会やUNHCRの活動を通して、現地の日本人はとても頑張っている気がします。僕自身はまだ修行中の身ですが、麻酔(というより救急ですね)をしっかり身に付けて、Disaster(天災であれ人災であれ)に対応できるようになりたいと思っています。

今後ともよろしくお願いします。



ブランダイス大学の大口さんから

粂さん、

こんにちは、三次会まであったなんて・・・。本当にご苦労さまでした。報告書を読んで、実は、うーん、と思っております。私は、愛国心をあおる学校教育の現状を云々したかったわけではなく、ロードアイランドが保守的な州だという報告がしたかったわけでもないんです。なんだか、話が勝手にそちらに行ってしまって、あれれ、と思っていたのですが、粂さんの報告および、河村さんの意見を読んで、いいたかったことが伝わらなかったことに気付かされました。
国旗・国家に忠誠を尽くすという教育は、(移民の国である)アメリカにとっては、どうしても必要なことで、アメリカの自由とは、その上にたったものであると思う。アメリカがいう、アメリカの自由と、日本人が考える自由は、(および他の国が考える自由全て)そもそも違うものだと思う。(そのことを理解せずに、アメリカは自由の国のはずなのに、という議論はおかしいと思う。)(かっこ内は、あのときに言えなかった補足です。)ということを言いたかっただけなのですが、あまり大したことではないでしょうか?私としては、ちょっと釈然としない思いがしております。

私にとって、アメリカは、好きな国ではないのですが、むすこの教育に関しては、(あまり感心しないこともありますが)学校の先生方は、本当によくして下さっていると思うし、私自身は、ロードアイランドで、discriminationを、受けたと思ったことは、一度もありません。
たぶん、私の意見の言い方が悪かったんだろうなあ、と思うのですが、今ひとつ不本意です。
(元もと、マイナーな意見の持ち主なので、多くの人の共感を得るのは、難しいタイプだとは自覚しております。)

大口恵子


# 大口さんの意見はマイナーなものだとは思いません。この補足でよくわかりました。教育については、地域・教師による差がものすごく大きいというのも特筆すべきでしょうね。ちょうど、今日(12/07/2001)は真珠湾攻撃の60周年で、ボストングローブが、記事の中では、真珠湾と911の類似点は、この事件によりアメリカが一つになったということだと、書いていました。表面的には正しいと思います。また60年前の号外を収録していて、町の人の声として、I hope to blow them to hell. とか、Now's our chance to do what we've always wanted to do. とか、初日だけあって生の怒りの声がたくさん載っていて、とても興味深く読みました。
# また、昨日、アシュクロフト長官の発言で、「noncitizen の権利を守ることは、citizen とimmigrants への危険を増す」という意味の言葉があり、移民の国というのをはっきり意識させられました。

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ハーバード大学の安藤さんより

粂さん、

会報告並びに写真アップありがとうございました。いやーこの徹底したフォローアップは頭が下がります。すごい・・・。しかし本当に楽しい素晴らしい会でしたね。改めてありがとうございます。

では粂さんの感想にコメントを。

「トラ・トラ・トラ」は興行的には成功しなかったので、浸透しなかったのかもしれません。そういう意味では残念ですね。(確かに私はあれを見るとその公平さにアメリカを尊敬してしまいます。)一方「パールハーバー」は言ってみれば悪質なフィクションです。

しかし田中さんも言っていたように、真珠湾攻撃に対する認識がいま日米双方とも変わろうとしているようです。今はまだ一部の者にしか知られてませんが、これはそのうちもっと大きな動きになると思います。

今回のテロ報道で途中からパールハーバーの言葉が聞かれなくなりました。またブッシュ大統領やMITで講演したチョムスキーも、この例えはまずいと言っていたと思います。

これは最近の考え方から行けば、もしテロがパールハーバーと同じならば、今回も政府はテロが起こるのを知っていて攻撃させたのか、という方向に議論が向くのを嫌ったと見ることもできます。

パールハーバー報道に関してはハーバードの日本人上席研究員の方が正式に抗議記事を書いていたと思います。私自身も日本人として「ふざけるな」というのが正直に沸き上がってくる感想です。

・・・と興味がつきませんね。この辺で(^^)。

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最後に幹事の反省:今回、参加者に配った名簿は、ほぼ申し込み順に順不同で作ったのですが、そこに番号をふったのが間違いだったようですね。手抜きせずアイウエオ順に並べ替えるべきでした。自己紹介の時に、「○番の誰々」です、と最初の方の誰かが言い始めて以後、パーティの時まで、「○番の誰々」という呼び方が「定着」して、これがトラウマになった参加者がいたそうです。お許し下さい。15番の粂でした。