●アメリカ医療のよくわかる本の紹介
(HMJ mailing list に2000年9月8日に投稿したものを一部改変)

最初の情報は金沢大医学部の野村先生からも頂いたのですが、大変面白かったので、以下の本を、ご紹介します。
 「市場原理に揺れるアメリカの医療」
  (李啓充著、医学書院、2200円、98年10月発行)
李先生は京大医学部を出て10年前から現在までMGHにいらっしゃいます。(2000年4月にNHKのETV2000に出演されてお顔を拝見したのですが、先日、ボストン日本語学校でもお会いしました。)本の内容は、アメリカの様々な医療制度(HMO,PPOなど)の説明や、医学の発展の歴史など、医療関係者なら、是非、知っておいた方がいいようなことが平易に書かれていて、特に、MGHとブリガムの合併劇の裏話や、ダナファーバーでの医療過誤とその対策の進め方など、ボストンにいる方には、非常に身近で面白い話が満載です。また、タイトルの印象とは異なり、挿入されたエピソードの形で、例えば、最近訴訟が話題になっているセルティックスのルイス選手の死亡事故の経過の詳細や、ベイ・ブルースとレッドソックスとダナファーバー研究所との関係などといった、一般の人が読んでも面白いし、大変感動的な話を、お医者さんとは思えないような巧みな文章で書かれています。なぜ、レッドソックスが、ずっとワールドシリーズに勝てないかまでよくわかります。こんな素晴らしい歴史のある町に住めてよかったと思わせてくれる話もいっぱいです。流石書店には置いてないでしょうから、手に入りにくいとは思いますが、医学関係以外の方にも推薦しますので、是非ご一読を!!!


●時差ぼけ対策について
(HMJ mailing list に2001年1月3日に投稿したものを一部改変)

睡眠障害相談室の文章ですが、ここにも掲載します。一応、専門分野ですので中途半端に書けません・・・参考にして下さい。うちは、子供にも2−3日、メラトニンを飲ませました。ごく軽い睡眠薬や、抗ヒスタミン剤系の薬を飲ませても、短期間なら、別に害はないと思います。ちなみに、メラトニン受容体のクローニングは1995年、現在は埼玉医大精神科にいる海老沢先生のMGHでの仕事です。

時差ぼけについて
時差ぼけは、飛行機で時差がある場所に移動した時に、体内時計が現地の時間に合うまでに不適応症状を起こすことで、英語ではジェット・ラグ(jet lag)と呼びます。ほとんどは、睡眠の異常で、日中ひどく眠くなったり、夜、寝付きが悪くなったり、中途覚醒が起きたりします。東回り、日本からだとハワイなどに旅行した場合は、時計が「先に」進み、ヨーロッパなどへ西回りに旅行した場合は、時計が「後ろに」遅れます。帰路は逆です。一般的には、東回りより西回りの方が適応が楽です。体内時計の周期は、ほぼ24時間ですが、朝、光にあたると、この周期が短くなり、夕方から深夜にかけて光にあたると、周期が長くなります。この性質を使って、時差ぼけをなるべく早く乗り切る工夫を以下に記します。なお、いずれの場合も、「睡眠時間と休息」をしっかり取ることが、楽に時差を乗り切るこつです。1.東回りで時計が「先に」進んだ場合:移動後、もとの時間帯ではまだ夕方の時間に眠り、早朝の時間に起きる必要があります。体内時計を進めるために、眠くてもちゃんと早起きして、朝一番に、できれば日光に15分以上、当たるようにします。夜は、体内時計を遅らせないために、夜更かしして光にあたることは避け、少し早めに眠ります。この時、当然、あまり眠くないはずなので、軽い睡眠薬を飲むのもよいでしょう。またメラトニン(別項参照)が使える場合、夕食後の時間帯に飲むことで、体内時計をより早く進めることができ、軽い睡眠薬にもなって便利です。時差ぼけの「予防」として、移動する日の2−3日前から、移動後の場所の夕方の時間帯に合わせてメラトニンを飲んでおくと良いとも言われています。2.西回りで時計が「後ろに」遅れた場合:日本では深夜の眠い時間にも起きている必要があり、朝は、ねぼうしている状態になります。夕方、いちばん眠くなる時間帯に眠ってしまっても決して悪くはありませんが、体内時計の観点からは、夕方に屋外を散歩したりすることにより、光で体内時計を遅らせ、眠気も解消することができます。朝は、カーテンをきっちり閉めて部屋を暗く保ち、目が早く覚めてしまっても、日の出までは寝室の中に、いるべきでしょう。3.時計が逆転する場合:日本からアメリカ東海岸に移動すると行きも帰りも、ほぼ時間が逆転してしまいます。動物実験では、時計を逆転させた場合、適応の仕方が個体によって変化し、時計を徐々に進める、遅らせる、時計が狂う(数日間、めちゃめちゃなリズムになる)の3つのパターンになります。上述のように時計を遅らせる方が体には楽なので、少しずつ遅らせる方向で時差を乗り切る方がよいと考える方がいるかもしれませんが、一般的には到着地の日中に仕事をしたりする必要があるため、時計を進める方向で、時差を合わせる方がよいでしょう。そのための工夫の仕方は、1.を参照して下さい。
メラトニンについて
メラトニンは、日本では認可されていませんので手に入りません。しかしアメリカではビタミン剤と同じ扱いで、スーパーマーケットでも買えますし、空港の売店にも置いてあり、最近は買って帰る人も多いので紹介します。メラトニンは、脳の中の松果体という場所で作られるホルモンで、体内時計が夜になると分泌が増えます。そのため、時差ぼけの調節や軽い睡眠薬として使用されます。ただその効果には疑問を持つ人もいて、意見が別れています。メラトニンが、直接、眠気を強める作用は非常に弱いようですが、体温を下げる作用、軽い倦怠感(だるさ)をもたらす作用があり、そのため、間接的な睡眠導入作用があります。また、概日周期の面からは、体内時計を「前に進める」作用が強いので、時差ぼけには、ある程度有効と考えられます。錠剤は、1,3,6mg(ミリグラム)のものが、主流ですが、催眠作用を期待する場合は3mgは必要です。メラトニンは、体内でも作られているホルモンですから、時差ぼけ対策などに、短期間の服用なら、副作用の心配はほとんど不要です。日本で認可されていないのは、危険だからではなく、あまりにも安い薬なので、もうからないからです。


●ハンセン氏病
(HMJ mailing list に2001年2月8日に投稿したものを一部改変)

日本では、差別問題でしか語られないハンセン氏病ですが、今でも、インドなどの国では、かなり重大な問題のようですね。下記のサイトは参考になります。

WHOのページhttp://www.who.int/lep/
=>この中に、Leprosy 関連のMLがあります。サブスクライブして、わからないことを質問するのが、いちばん、手っ取り早そうです。http://www.who.int/lep/l5.htm

BBCのページhttp://news.bbc.co.uk/hi/english/health/newsid_624000/624155.stm
Kenon 大学のページhttp://www.kenyon.edu/projects/margin/lepers.htm
同上の中の文献http://www.kenyon.edu/projects/margin/lepbib.htm

注:この後、小泉首相が誕生直後に、日本でハンセン氏病患者の差別に対する裁判の判決があり、患者側勝訴、政府が控訴をしないという決定が下され話題になりました。


●研修医問題
(HMJ mailing list に2001年5月22日に投稿したものを一部改変)

1.こちらに留学していても、基礎系の研究室にいる方は、アメリカの研修医制度の詳細は、あまり触れる機会がないと思いますが、 下記の本は、簡単に読めて状況がよくわかりお勧めです。赤津さんは、実は古くからの友人なのですが、この本は、つい最近、貸してもらって読みました。なお、この本は彼女の「医学部生時代」を書いた本の続編です。一般の方が読んでも面白いと思いますよ。
  「続・アメリカの医学教育(スタンフォード大学レジデント日記)」 赤津晴子著:日本評論社、1700円、99年7月初版
こちらの研修カリキュラムがしっかりしているという点はもちろんですが、medical school の入学者を選抜する時に、medical studentの意見を尊重したり、画一的な基準を作らず、数人ずつ時間をかけて選んでいくという部分が、興味深かったです。

2.日本で研修医制度の義務化(2004年度)へむけて議論が盛んになっていますね。 読売新聞によく取材した連載が載りました。「医療」「ニュース」の中の「その他」 http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/index.htm三重大病院の輸血ミスで、医師3人が業務上過失致死で送検された時のことなどは、人ごとではない感じです。

3.同じ所にこんな記事もありました。風当たり、強いですね・・・ふー。
> 医療過誤訴訟 国立病院112件> ◆42大学中40大学、全国水準の3倍> http://www.yomiuri.co.jp/iryou/index.htm> > 国立大学病院が現在抱えている医療過誤訴訟数が公表されました。> 全国水準の3倍というのは、やはり問題だと思います。> > ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・> 鈴木利廣弁護士の話「高度医療だから危険なのではなく、安全な医療を施すための教> 育を十分に受けていない研修医らが、高度医療を担っている点が問題。病院側が患者> 側に誠意のある説明を行わない現状、過失を認めない国の体質も紛争化の背景にある」

4.さらに興味がある、あるいは、研修医問題改善に、「ひとはだ脱ごう?」という方は、下記のMLなどどうでしょうか?

研修医ネット
http://www.egroups.co.jp/group/kensyui-net>


●ラドンと健康被害について
(HMJ mailing list に2001年5月26日に投稿したものを一部改変)

ラドンの質問があったので、ちょっと調べてみました。タバコを吸わない人の肺癌のかなりの部分の原因と考えられているようですね。また、自然被曝の約半分をしめる、意外に重要なもののようです。

ラドンの監視については、National Safety Council, Environmental HealthCenter の下記のページがよくまとまっています。
http://www.nsc.org/ehc/radon.htm
下のページでマサチューセッツのラドン濃度を調べると、おそらく埋め立て地が低いのではないかと推測しているのですが、ボストンの市内はなぜか低いのですが、その回りは、全てレッドゾーン!で、20%以上の家屋の中で、4.0 pCi/l の基準を越える、「ラドン危険地帯」に我々は住んでいるようですね。Worster あたりまでダメ?です。
http://www.epa.gov/iaq/radon/zonemap.html
自分の家の実測値は、10ドルのキットで簡単に調べられるそうですね。そして。もし高かったら、下記に対処法が出ています。しかし、基本は、地中から出てくるものなので、風通しをよくする(特に地下室)ことが、一番よいようです。
http://radon.com/radon/mitigation.html
下記には医療関係者向けのやや専門的なプレゼンテーション資料があり、勉強になります。
http://www.radon.com/
となると、日本のことも気になりますが、
ラドン観測とその応用研究分野http://www.ed.gifu-u.ac.jp/~tasaka/html/field.html
放射線医学総合研究所を中心と二つのグループが、日本での屋内ラドン濃度の実態を知ろうと、調査を進めている。 小林定喜・総括安全解析研究官たちのグループは,全国調査の中間報告として、調査家庭約6300軒の平均濃度は1立方メートル当たり28ベクレルだったと発表した。米環境保護局が決めた基準(同約150ベクレル)を越えたのも,0.5%に当たる29軒あった。藤元憲三主任安全解析研究官は「米国では20%が基準を越えていると言われる。これと比べると日本では高濃度の家庭は少なそう」といっている。これとは別に阿部さんらも,屋内ラドン濃度をを各地で測定してきた。対象家庭約250軒の平均は約10ベクレルと,小林さんらの結果よりさらに低く,阿部さんは「日本ではそう心配することはない」とみる。両調査とも危険なレベルではないが,平均値の差は3倍に近い。同研究所の戸張厳夫・科学研究官は「多数の地点でデータを取る測定,数は少ないがきめ細かく調べる測定,と考え方が違い,差が出ている。だが日本のラドン状況が,国際的に求められている時期。両調査の方法を比較する実験が行われている。
なのだそうです。
最後に、「タバコを吸えば、ラドンの心配はなくなる=>肺癌になっても、あの時、ボストンに留学していたからだと後悔せずにすむ」と、悪い冗談を書こうと思っていたのですが、タバコの発癌作用を増強するようですから、スモーカーも、多少は気にした方がいいのかもしれません。



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